アライアとミュグレーが再ブーム!中古市場の最新相場と買取動向
2025.06.05

近年、急速に人気を高めている「Alaïa(アライア)」や「Mugler(ミュグレー)」。
その影響もあって、アズディン・アライア時代の「アライア」や、ティエリー・ミュグレー自身が手がけていた時代の「ミュグレー」といった、いわゆる “ヴィンテージ・アライア” や “ヴィンテージ・ミュグレー” も再び注目を集めるようになってきました。
特にファッション感度の高い方であれば、伊勢丹などの百貨店を訪れた際に「最近やたらとアライアやミュグレーのブースが増えているな?」と感じたことがあるかもしれません。
それほどまでに今、この2ブランドはファッションシーンの最前線に返り咲いているのです。
今回は、80年代を象徴するこの2ブランドについて、当時特に評価されていたアイテムにはどのような特徴があるのか、そしてリバイバル(復刻)&アップデートとして現代に再スタートを切った両ブランドが、現行のデザインでどのように進化しているのかを深掘り、買取事情にも言及していきます。
重要な転機と進化で再注目のアライア
アライアは1970年代末にパリでスタートし、1980年代に一世を風靡したブランドです。
体のラインを美しく引き立てる “ボディコンシャス” なシルエットは、当時のファッションシーンに新風を吹き込みました。
彫刻のように構築的なデザインは他にはない個性を放ち、グレース・ジョーンズやナオミ・キャンベルといったセレブリティにも愛用されたことで広く知られるようになります。
その後、一時的にコレクションの発表頻度を減らしていましたが、近年ふたたび注目が高まっています。
アライアの哲学を受け継ぎながらも現代的な感性を取り入れた新たなクリエイションが、再評価の流れを生み出しています。
2人のデザイナーが生んだ「唯一無二のアライア像」
「アライア」というブランドを、洋服という視点で捉える場合、創始者アズディン・アライアと現クリエイティブ・ディレクターであるピーター・ミュリエが描くブランド像は、時代やアプローチこそ異なるものの、驚くほど深い部分で共鳴していることがわかる。アズディン・アライアにとって服作りとは、まさに「建築」であり「彫刻」。
その制作姿勢は一貫しており素材の性質を知り尽くした上で、布地と身体が一体化するような衣服を生み出している。
彼の服は、極端に絞ったウエストや張り出したヒップ、ボディラインをなぞるようなフィット感を特徴とし、それでいて着心地を損なうことのない驚異的な完成度を備えています。
使用する素材も、ストレッチやニット、レザーといった身体の動きに呼応するものが中心で、それらを独自の縫製技術で身体の延長のように仕立てています。
レザードレスやボディスーツに見られるように、硬質な素材をしなやかに操り、服がまるで“第二の皮膚”として機能することを目指していました。
一方で、ピーター・ミュリエは、アライアの構築性や身体性への敬意を基盤に持ちながらも、そこに現代的な柔軟さと解放感を加えています。
ミュリエの服は、アライアの伝統的な精度を保ちつつも、より軽やかで機能的な要素をまとっています。
例えば、クラシックなフィットドレスにはテクニカルニットやストレッチファブリックが多用され、日常的に着ることのできる構築服としてのアライア像を再定義しています。
また、現代的なレイヤードスタイルやストリートの要素も部分的に取り入れ、身体に寄り添いながらも “動き” や “余白” を感じさせるシルエットが特徴的です。
ミュリエの特徴のひとつが、レザーのカットワークやクラフト技術の再解釈です。
コルセットやバッグなど、身体に密着するアイテムに繊細な装飾性を加え、アライアが得意とした「構築とフェティッシュの境界線」を、より洗練された形で再提示しています。
アライアのレザーは “抑制された扇情” を表していたのに対し、ミュリエのレザーは “洗練された自己表現” のように映ります。そこには、時代の空気を汲み取ったどこか新鮮な女性像の提案を感じさせます。
そして、いずれのアプローチにおいても、「アライア」というブランドは、身体に対する誠実なまなざしと、構築の美学が貫かれていて、アズディンの硬質で静かなデザインも、ミュリエの軽やかで知的なスタイルも、それぞれの時代において、女性の身体と心を優しく包み込む力を持ち続けています。
「アズディン・アライア」と 「ピーター・ミュリエ」について

アズディン・アライア Azzedine Alaïa は、チュニジア出身のデザイナーで、〈アライア〉の創設者。彫刻のように身体に沿うシルエット、完璧なフィット感、素材への深いこだわりで知られ、1980〜90年代には“キング・オブ・クレヴィージュ(曲線美の王)”と称されました。オートクチュールに匹敵する手仕事をアトリエで一貫して行い、流行や商業主義に媚びることなく、身体と布の関係性を静かに、しかし極めて強く追求した孤高の職人。

ピーター・ミュリエ Pieter Mulier は、2021年より〈アライア〉のクリエイティブ・ディレクターに就任。ラフ・シモンズの右腕として長年キャリアを積み、構築的で知的なモードに定評があります。ミュリエはアライアの精神を継承しつつ、より現代的で機能的な服づくりへと展開。アイコニックなフィットドレスやカットワークレザーを用いたアクセサリーなどを通じて、ブランドを現代のファッション像へと昇華。
【新旧デザイン比較】80s、25SS
イメージ | 商品の特徴 |
---|---|
![]() | 80年代(アズディン・アライア) ・80sによくみられる大ぶりなショルダーパッド ・ラペル幅が大きく、ゴージラインも高い装飾的な襟 ・ウエストシェイプのきいたシルエット ・多量なボタンを用いたダブルブレスト |
![]() | 現行(ピーター・ミュリエ) ・都会的で、モダンに昇華されたシルエット ・ダブルライダースに配されるベルトやポケットのデザインで、他製品との差別化を図る |
イメージ | 商品の特徴 |
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![]() | 80年代(アズディン・アライア) ・現行のサンプルソース(元ネタ)とも見受けられる一品 ・デザイナーズブランドは過去作を再解釈しながら展開している ・アーカイブブームの影響で70~2000年代初頭のシルエットが際立つアイテムは市場で高評価を得やすい ・レディースでは「曲線美」や「凹凸感(コブなど)」が特徴的なアイテムが好まれる傾向 |
![]() | 現行(ピーター・ミュリエ) ・トレンド性の高い短丈・長袖のボクシーなシルエット ・ウエストを強調するXシルエット ・デニム素材のソリッドなライダースジャケット ・ポケットの要素などがない |
着る彫刻!アライアのヴィンテージが高く評価される理由
特に「ヴィンテージ」として高く評価されている〈アズディン・アライア〉のアイテムは、1980年代から1990年代半ばにかけて、アライア本人が手がけたコレクションに集中しています。
ファッション界の小さな巨匠とも呼べる彼のデザインの最大の魅力は、服が身体そのものの延長として機能するような、完璧なフィット感と構造美にあります。
彼の服は決して過剰な装飾に頼ることなく、女性の身体のラインを最も美しく見せることに特化しており、まさに「着る彫刻」としての芸術性を備えています。
特に評価が高いのは、ジャージーやレザーといった伸縮性のある素材を用いたドレス、スカート、そしてフィット感の強いジャケット類です。
アライアは、これらの素材を縫製技術によって完璧に身体に沿わせることに長けており、その仕立てはクチュールにも匹敵する精密さを誇ります。
代表的な「ボディコンシャス」ドレスは、女性のウエスト、ヒップ、バストをナチュラルに際立たせ、身体の美しさを最小限の構造で最大限に引き出します。
シンプルでありながら力強く、静けさの中に官能性が宿るようなスタイルは、今なお多くのファッション関係者やコレクターから熱い支持を集めています。

彼はランウェイよりもアトリエでの制作に重きを置いたことで知られており、ショーも限られた空間で、服そのものの完成度を見せるためにミニマルに演出されていました。
モデルたちはあえて無機質に歩き、観客は服のシルエット、動き、素材感に集中するよう促されます。
そこにあるのは演出ではなく、純粋な“衣服と身体の関係性”そのもの。アライアの服は、外部の視線を意識するよりも、着る人自身が感じる快楽や感覚を大切に設計されているのです。
たとえば、1990年頃のレザーボディスーツは、アライアの技術と哲学が凝縮された一着。柔らかくしなやかなラムレザーを用い、まるで肌の一部のようにフィットしながらも、力強く女性のフォルムをなぞるようなデザインとなっています。

レザーという一見ハードな素材が、まるでニットのように身体に吸い付くこのテクニックこそ、アライアの真骨頂です。
また、同時期に発表された「ジップドレス」も象徴的で、ジップが大胆に施された構築的ドレスは、脱ぎ着するという日常的な行為・可動・聖域などを感じさせるフェティッシュなニュアンスを加えた、アライアならではの官能表現と言えるでしょう。

こうしたアイテムは、単なるファッションではなく、“身体との親密な対話” を促すような存在です。
服が身体を締めつけるのではなく、身体と一体化し、内側から官能を引き出すという発想は、アライアの哲学の根幹にあります。
彼の服は「自己を誇示するため」ではなく、「自己と向き合うため」の装置であり、その沈黙の中に宿る強さが、今なお人々を惹きつけてやみません。
現在では、これらのヴィンテージピースは、アーカイブとしてだけでなく、現代のボディコンシャスなトレンドや “着ることで感覚が変わる服” という観点からも再評価されており、リアルクローズとしての魅力が再発見されています。
ピーター・ミュリエが2021年より〈アライア〉のクリエイティブ・ディレクターに就任したことで、アズディン本人が遺したアーカイブの精神は現代の感覚と融合し、より広い層にアプローチするブランドへと進化を遂げつつあります。
ヴィンテージ アライアの買取相場
ヴィンテージの「アライア」は、単なる古着ではなく “時代を超えて着られるアートピース” として扱われる存在です。
高価買取を狙うなら、専門知識のあるバイヤーが在籍する店舗や、アーカイブピースを適切に評価できる買取サービスを選ぶことが重要です。
デザインによっても買取相場は大きく異なりますが、以下は一例になります。
イメージ | アイテム名 | コンディション | 買取目安 |
---|---|---|---|
![]() | Alaïa アライア レースアップ レザージャケット | Aランク (美品) | 40,000円 ~ ASK |
![]() | Alaïa アライア 80s ウール ロングコート | Aランク (美品) | 30,000円 ~ ASK |
現行アライア|ミュリエが拓く新時代の美学
「アライア」において現在特に注目されているのは、2021年にクリエイティブ・ディレクターに就任したピーター・ミュリエによるコレクションです。
ラフ・シモンズの右腕として長年培ってきた構築的な感性と、アライアの遺した比類なきクラフツマンシップへの敬意が交差するミュリエのアライアは、単なるブランドの再始動ではなく、身体と服の関係性を新しい時代の言語で再定義する試みとして高く評価されています。
ミュリエ体制のアライアは、アズディン・アライアの代表的な美学である緊密なフィッティング、滑らかなライン、彫刻的なシルエットを忠実に継承しながら、それを現代的で、グローバルな女性像へと結びつけています。
例えば、デビューコレクションでは、アライアのアイコンであるジャージードレスやレザースカートがミニマルなパレットで展開され、素材の選択と縫製技術の精密さが際立つコレクションに仕上がっていました。

アライア特有の「静けさ」と、ミュリエならではの構築的なバランス感覚が溶け合い、今の時代にふさわしい「アライア」としての説得力がしっかりと表れています。
また、ミュリエが注目を集めている点のひとつが、レザーのカットワークを用いたコルセットやバッグといったアクセサリー類の進化です。

現代だからこそ為せる精密なレーザーカットを施したレザーピースは、かつてのアライアの彫刻的感覚を小物にまで落とし込んだものであり、レザーという素材の硬質さと女性らしい軽やかさを同時に表現する象徴的アイテムとして機能しています。
レザーバッグにおいても同様に、構築的でありながら繊細なディテールが際立ち、ブランドのクラフツマンシップの新たな顔ともいえる存在となっています。
さらに、近年のコレクションでは、アライアの代名詞でもある「編み地の彫刻」フィット感の高いニットやボディスーツが大胆にアップデートされています。
身体に密着するフィット感やカッティング技はそのままに、よりスポーティなアクセントや、機能的なデザインが加えられており、身体を祝福しながらも抑圧しない、知的な官能性へと昇華しています。
これはまさに、アズディン・アライアが追求していた“身体と布の関係”を、現代の視点で再解釈した産物と言えます。
このように、ピーター・ミュリエの〈アライア〉は、ブランドの本質である「身体に寄り添う服」という考えを大切にしながら、現代の「機能性」や「自由な表現」も取り入れています。
彼のコレクションは、かつてのヴィンテージ・アライアが持っていた “着ることで感覚が変わる” という特別な魅力を、今の時代に合ったかたちで受け継いでいるのです。
現行アライアの買取相場
現代のアライアにおいては、旧来から引き継がれてきた独特なレザーの扱いにおいて、最新鋭とも呼べる非常に繊細なレーザーカットの技術を用いたバッグや、当時の雰囲気を踏襲するコルセットが代表的です。
イメージ | アイテム名 | コンディション | 買取目安 |
---|---|---|---|
![]() | Alaïa アライア 1992 EDITION CORSET BAG コルセット バッグ | Aランク (美品) | ~110,000円 |
![]() | Alaïa アライア VIENNE MINA MINI レザー パンチング バッグ | Aランク (美品) | ~80,000円 |
![]() | Alaïa アライア Neo Bustier レザー コルセットベルト | Aランク (美品) | ~50,000円 |
アライアとミュグレー|2つの構築美、2つの身体観
1980年代を象徴する2大ブランド、「アライア」と「ミュグレー」。
どちらも構築的なデザインで時代を牽引しながらも、そのアプローチは正反対の美学に貫かれています。
現在では「アライア」はピーター・ミュリエ、「ミュグレー」はケーシー・カドウォールダーが継承し、それぞれの哲学を現代的にアップデートし続けています。
身体に寄り添うアライア、変身させるミュグレー
アズディン・アライアは、服作りを“彫刻”や“建築”と捉えながらも、あくまで身体と布の密なる関係性に焦点を当てていました。
伸縮性のあるジャージーやニット、しなやかなレザーを使い、身体に吸いつくようなフィット感を実現させ、服はあくまで身体の延長であり、第二の皮膚のように作用させていた。
一方のティエリー・ミュグレーにとって服は、着る人を変身させる装置。
極端に誇張されたシルエット、メタリックな素材や構築的なカッティングを通じて、着る人を「神話的存在」や「ヒロイン」へと変貌させる力を持っていました。
静と動|「沈黙する官能性」と「演出されたパワー」
アライアのデザインは静かで、あくまで身体の美しさを引き出すことに徹していました。構築性がありながらも柔らかさと繊細さを感じさせます。
一方でミュグレーは、その反対。フェティッシュやSF的要素を取り入れ、視覚的インパクトとドラマティックな造形美を追求。観客の視線を奪い、服そのものがストーリーを作成します。
現代の継承|「親密な解放」と「パワーの再定義」
現代の「アライア」を率いるピーター・ミュリエは、アズディンの身体性と構築性を丁寧に読み取りつつ、より軽やかで現代的な提案へとアップデートを重ねています。
テクニカルな素材やレイヤード、カットワークなどを用い、「纏う人の自由を奪わない構築服」を提示。クラシカルなアライア像を、知的で実用的な方向へとアップデートしています。
対して、「ミュグレー」を再定義したケーシー・カドウォールダーは、ティエリー・ミュグレーの象徴的な構築性とセクシュアリティを、よりインクルーシブでジェンダーフリーな価値観へと拡張しました。
2023年のH&Mコラボをはじめ、ボディポジティブなシルエットやストレッチ素材を多用し、あらゆる身体が自分らしく “かっこよく” 見えることを可能にしています。
ミュグレーという思想|構築美の継承と変遷
「ミュグレー」というブランドを洋服という視点から捉えると、創始者ティエリー・ミュグレーと、2017年から2025年までブランド再興を担ったケーシー・カドウォールダーの間には、表現方法の違いこそあれ、共通した美意識と息遣いが感じられます。
ティエリー・ミュグレーにとってファッションとは、単なる衣服ではなく、「変身のための舞台装置」でした。
彫刻のようなフォルム、誇張されたショルダーやウエスト、フェティッシュで未来的なディテールを通じて、着る人の身体そのものを再構築しようとしていました。
PVCやメタリック素材、光沢のあるサテンやレザーなどを大胆に使用したミュグレーの服は、身体の輪郭を強調し、女性を神話的な存在へと昇華させる力を持っていました。
1980年代の代表作である「ロボットスーツ」や「インセクトルック」などは、“着る彫刻” と評され、ファッションによって女性の強さ、美しさ、未知なる存在感を視覚化したのです。
さらにミュグレーは、ランウェイショーそのものを「演劇」として構築し、衣服と演出を融合させた壮大な世界観を打ち出しました。
ショーは単なるプレゼンテーションではなく、観る者の感情を揺さぶる総合芸術の場であり、ファッションの可能性を限界まで広げる試みでもありました。
「ティエリー・ミュグレー」と 「ケーシー・カドウォールダー」について

ティエリー・ミュグレー Thierry Mugler は、1980〜90年代に活躍したフランスのファッションデザイナーで、彫刻的なシルエットや未来的・フェティッシュなデザインで知られます。
鋭角なショルダーや極端に絞られたウエストによる「Xライン」など、女性の身体を強く演出するスタイルが特徴で、ファッションショーを舞台芸術のように総合演出した先駆者でもあります。
その世界観は、現在も多くのデザイナーに影響を与え続けています。

ケーシー・カドウォールダー Casey Cadwallader は、2018年から2025年まで「ミュグレー」のクリエイティブ・ディレクターを務め、ブランドの再活性化に大きく貢献したデザイナーです。建築出身という背景を活かし、ティエリー・ミュグレーが築いた彫刻的で官能的な美学を、現代的かつジェンダーにとらわれない感性でアップデートしました。
彼の手がけたコレクションは、ビヨンセやデュア・リパなどセレブリティにも多く支持され、特にボディスーツやカットアウトのドレスといったアイテムで注目を集めました。2023年には〈H&M〉とのコラボレーションを通じて、より幅広い層にミュグレーの世界観を届けたことも大きな話題となりました。
2025年春に退任し、後任にはミゲル・カストロ・フレイタスが就任。カドウォールダーの時代は、「ミュグレー」にとって重要なフェーズだったと言えるでしょう。
変身を生む服、80s「ティエリー・ミュグレー」

特に「ヴィンテージ」として高く評価されている「ティエリー・ミュグレー」のアイテムは、1980年代から1990年代半ばにかけて、ミュグレー自身が手がけたアパレルに集中しています。
彼のデザインの最大の魅力は、建築的な精密さと視覚的なインパクトを兼ね備えたシルエットにあります。
鋭角的なショルダーと極端に絞られたウエストで構成される「Xライン」は、女性の身体を彫刻のように美しく造形し、ただ服を着せるのではなく、着る者をまったく新しい存在に変身させるような力を持っていました。
特に、テーラードスーツやコルセットドレス、ボディスーツなどの構築的なアイテムは、当時の “強く、自立した女性像” を象徴するファッションとして高く評価されています。
また、ミュグレーの世界観を語る上で欠かせないのが、彼自身が総合演出を手がけたランウェイショーの存在です。1990年代のショーは、もはやファッションショーの枠を超えた「舞台芸術」とも呼べる壮大なものでした。
これらのショーでは、彼の衣服が単なるファッションアイテムではなく、“物語を語る視覚芸術” として提示され、その表現力がいかに唯一無二であったかを物語っています。
素材選びにも革新性が見られ、PVCやメタリック、ラメ、ビニール、サテンなど、当時としては斬新な質感を用いながら、構築性と官能性のバランスを巧みにとっています。
その仕立ての精密さはクチュールに匹敵し、まるで鎧のように身体を包み込む一方で、フェティッシュやSF、未来的要素をさりげなく内包したデザインが際立っています。
これらのヴィンテージピースは、単に時代を象徴するアイテムとしてだけでなく、現代のY2Kやグラマラス、ボディコンシャスなリバイバルの流れともリンクしており、今あらためて広義のリアルクローズと解釈され、魅力が再発見されています。
ミュグレーの服は、「見るためのファッション」であると同時に、「纏うことで物語が始まるファッション」として、今も多くの人を魅了し続けているのです。
その代表例のひとつとして象徴的な作品が、1989年秋冬コレクションに登場した「ロボット・ルック」です。

これは金属的な質感を持つPVC素材やメタルパーツを使い、女性の身体をまるでサイボーグのように包み込む、視覚的にも衝撃的なプロダクトでした。
のちにヘルムート・ニュートンによって撮影されたヴィジュアルや、ビヨンセやカーディ・Bなど現代アーティストのステージ衣装にも大きな影響を与えています。
まさに“着る彫刻”であり、ファッションが未来を語るためのメディアであることを証明したルックです。
1995年に開催された25周年記念ショーでは、これら80年代のアイコン的スタイルがさらに進化した形で再解釈され、甲冑のようなメタルコルセットや、昆虫・動物を模したボディスーツなどが登場しました。

初期作品が持っていた構築性とフェティッシュ性は保ちつつも、より幻想的・彫刻的な方向へとスケールアップしており、ミュグレーの表現がどこまでも “舞台芸術” に近づいていったことがうかがえます。
こうした背景を持つミュグレーの80年代作品は、今なおデザインの革新性、コンセプトの明快さ、構築の完成度という点で高く評価され、アートピースとしても、リアルクローズとしても、ヴィンテージ市場で圧倒的な人気を誇ります。
着ることが「変身」であり「主張」である。
そんなティエリーミュグレー自身が手掛けるミュグレーの服は、ヴィンテージの価値としてだけでは決して評価できない、現在のファッションにおいても唯一無二の価値を持ち続けているのです。
近年、80年代特有のシルエットがリバイバル(再興)として高く評価されています。
ヴィンテージ ミュグレーは、デザインによって大きくご案内金額が前後するため、買取金額をお知りになりたい場合はまずは、無料査定よりお気軽にお問い合わせください。
ケーシ-・カドワルダーによる新生ミュグレー
1980年代から1990年代初頭にかけて生み出された「ティエリー・ミュグレー」のアーカイブピースは、今なお “ヴィンテージ” という枠を超えて語られる、圧倒的な存在感と影響力を持ち続けています。
その本質にあるのは、ファッションを「着る演劇」「変身の装置」として捉える視点です。ロボット・ルックのような象徴的なアイテムは、日常と非日常、身体と未来、官能と力強さといった二項対立を大胆に融合させ、見る者の記憶に焼き付くビジュアルインパクトを与えてきました。
そして現在、そのDNAを受け継ぎながら「ミュグレー」を刷新しているのが、クリエイティブ・ディレクターのケイシー・カドウォールダーです。
彼が手がける現行コレクションでは、ミュグレーの原点とも言えるボディコンシャスなラインや構築的なテーラリングが、よりスポーティかつテクニカルな手法で再構築され、現代のリアルな身体性と美意識に寄り添う形で進化を遂げています。
例えば、PVCやメッシュ、ラテックスといった素材の選定や、鋭いカッティング、身体に沿うアングルの強いパターン設計など、オリジナルに通じる緊張感とフェティッシュ性を残しつつも、着用可能性やジェンダーフルイドな表現へとアップデートされている点が顕著です。
また、近年のコレクションには昆虫や植物、彫刻的な自然美を思わせる装飾的要素も見られ、かつての「甲冑としての服」から、「生き物のように変化する衣服」への進化も感じさせます。
とりわけ1995年の25周年記念ショーで展開された “神話的な存在としての女性像”
たとえばメタル製の胸甲や、昆虫の翅のようなディテールは、ケイシーの手によって現代的な素材と構成に置き換えられ、今の感性と身体にフィットする形で蘇生されています。
まるでミュグレーのヴィンテージピースが、現代に生きる身体の上で再び息を吹き返したかのようです。
さらに2025年秋冬からは、ディオールやサンローランで経験を積んだミゲル・カストロ・フレイタスが新たなクリエイティブ・ディレクターに就任予定とされており、ミュグレーというブランドが次にどのような “変身” を遂げるのかにも大きな期待が寄せられています。
1980年代のミュグレーが持っていた未来志向と、現代における技術と感性が出会うことで、ブランドは今、新たな形で「着ることの力」を問い直し続けています。その革新性と美学は、時代を超えてなお、有機的に更新されているのです。
まとめ|変身と親密さ、ミュグレーとアライア対照的な美学
ミュグレーのランウェイが「舞台芸術」なら、アライアのショーは「親密な彫刻展」といえるでしょう。
1980〜90年代初頭、「ティエリー・ミュグレー」と「アズディン・アライア」は共にファッションの最前線に立ち、女性の身体を軸に独自の美を築きました。
ミュグレーの描いた官能は演出重視。誇張されたショルダーラインやくびれたウエスト、メタリック素材などで「変身」を演出し、女性を神話的な存在へと押し上げました。
一方のアライアは、身体そのものへの敬意から出発し、ニットやレザーが肌に寄り添い、過剰な装飾を避けた「第二の皮膚」としての服で、内面からにじみ出る官能を引き出しました。
活動時期も都市も同じながら、その表現はまったくの正反対。ミュグレーは視線を集める外向きの変身を、アライアは感覚と響き合う内向きの親密さを追求していたのです。
現在、ミュグレーはケイシー・キャドウォールダーにより、スポーツウェア的要素と視覚的インパクトを融合したコレクションへと進化しています。
一方、アライアはピーター・ミュリエが引き継ぎ、アーカイブを土台に現代的なストリート感覚も取り入れています。
両者は今も、「女性の身体」や「官能性」という普遍的テーマに対して、それぞれ異なる美学をもって語り続けています。
過剰と抑制、装飾と構造、変身と親密さ、それら対極にあるそのスタンスが、ファッションという表現をより豊かにしているのです。